書架とラフレンツェ

読書記録メモです。ネタバレがバリバリです。

なろう・カクヨムで短編小説を書いている皆さんへのブックガイド

※本記事は短編小説執筆ピヨピヨ初心者の方向けのものです。ベテランの方には特に参考にならないかと思います。

 

皆様、旧年中は大変お世話になりました。2023年もどうぞよろしくお願いいたします。

先日、こういうtweetをしたところ多くの作品のご推薦を頂きました。皆様の作品すべて拝読いたしました、ありがとうございました。

色んな作品を興味深く拝読したのですが、おそらくまだ比較的年齢層が若い方の作品で、どうも自分が読みたいものを表現できず”書ける”表現の枠内で書いてしまっているのでは?という点が気になるものが散見されました。以下の記事で田中一行先生も仰っている通り、自分が納得いく面白い作品を生み出すには自分の"書けるもの"を一旦脇に置き、"心の底から面白いと思えるもの"を書こうとしなければならない局面があります。

youngjump.jp

 

とりあえず、短編小説を書く場合はひたすら「物語の面白さ」の表現に専念し、キャラの容姿の美しさや世界の複雑な設定の描写等は放り投げておいた方が事故が少ないです。どうしてもそういうことをやりたければ長編でやりましょう。短編でそれらのことを表現したい場合、連作短編という形で少しずつ積み上げていくのが吉です。

また、文章の単位として「シーン」を書ききることに留意してみましょう。小説は絵や漫画とは違い、キャラクターの内面や情景の描写等の外観といったものをひっくるめてシーケンシャルに読者に提示していくメディアです。よく字書きの間で「情景が絵で浮かぶか、動画で浮かぶか」といった議論がなされますが、どちらにせよ小説というメディアである以上、すべての情報を一度にドーンとは出せません。必ず文章という形で順番に提示する必要があります。なので、読者に提示する五感の流れを意識し、どこからどこまでが一続きのシーンなのか?ということを念頭に置いて書くと読みやすくなります。例えば、キャラの容姿を描写するなら視線は一般的に上から下に流れる、とか、何かを食べているならまず料理の見た目、その次に香りがあり、その後に温度、味が意識に上ってくる、といったようなことです。この順番がぐちゃぐちゃになっていたり、観測主体が行ごとに違う人間に切り替わっていたりすると読者が混乱します。神の眼を含め、誰の主観でそのシーンを観測しているのかを意識し、シーンごとに書ききってみましょう。それができるようになってから野心的な文章に挑戦しても遅くないです。

 

わたしも一介の読者の立場に過ぎず、偉そうな口を叩けるご身分ではないのですが、己の筆力の限界が読みたいものを書かせてくれない、という苦しみは身に染みて分かるつもりです。以下のブックガイドが同じ悩みを持つ皆様の一助になればと願います。

 

さて、"書けるもの"の範疇から脱却し"心の底から面白いと思えるもの"にフォーカスするためには、まずロールモデルとなる面白い作品を読む必要があります。自己満足で書いた作品ならともかく、他人に見せる作品で(成功/失敗に関わらず)それが提示できていない、ということは、多分インプット不足かと思われます。アウトプットの質量向上はかなり難しいですが、インプットなら比較的楽にできます。小説を書いている人間が必ずしも小説をたくさん読んでいるとは限らないので、インプットの量ならベテランを捲ることも夢ではありません。ぜひ年末年始のお休みにご挑戦ください。

以下、ざっくり分野別に参考作品を挙げます。どれも単純に作品として面白いのですが、その上で面白さのエッセンスが分かりやすく、比較的再現可能な面白さを持っています。これらを読み「なぜ面白いのか」を考えてみると、書くべき題材のランクがもう一段階上がるかと思われます。現代でも比較的手に入りやすいメジャーな作品を選びましたので、ぜひお近くの書店や図書館へ足を運んでみてください。

 

掌編

稲垣足穂一千一秒物語』: キラキラしたファンタジー掌編を書くなら絶対に押さえるべき先行作品

夢野久作『いなか、の、じけん』: 陰惨系・ホラー系のフラッグシップ作品

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ホルヘ・ルイス・ボルヘス『怪奇譚集』: 「すこしふしぎ」系の作品ならあらゆる着想が網羅されている。

 

エモい・みずみずしい恋愛・青春小説

江國香織きらきらひかる』: エモの塊のようなシーンを連ねる手腕が見事。この分野をフォローするなら外せない。

スティーブン・キングスタンド・バイ・ミー』: シチュエーション、そしてテリングでエモをかっさらっていく。他言語に翻訳されても失われないストレートなテリングの妙技は実に参考になる。

太宰治『駆込み訴え』: 人間の巨大感情を書く方法、手法としての一人称を選択する意味を考えさせてくれる名作。人称の選択は技法としての意味があります。なぜ一人称/三人称なのか?を説明できるようになれると素晴らしいですね。

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梶井基次郎桜の樹の下には』: 桜の樹の下に死体が埋まっている話のすべての元ネタはこれです。タイトルから叩きつけられる鮮烈なビジョンを決して出オチにしない、感情の暴力と言っていいほどの筆力から学べることは多いはずです。写経推奨作品。

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中勘助銀の匙』: 時代を超えてみずみずしい文章の手本。流れるような美文と情景の美しさは現代でも参考になる。

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連作短編(ミステリ)

アガサ・クリスティ『火曜クラブ』: ミステリとしての面白さと小説としての面白さの両立について学ぶなら、クリスティは格好の入門書になります。キャラの魅力を立たせ面白い謎解きを提示するためにどちらかを犠牲にする必要はありません。話のテンポの良さは大いに学べます。

アイザック・アシモフ黒後家蜘蛛の会』: キャラ萌えとミステリを両立させる上での重要参考作品その2。まず面白いストーリーを書ききる、その上でキャラの魅力がついてくる、ということの意味がよく分かります。

米澤穂信愚者のエンドロール』: 存命の日本人作家の中で最高の叙述作家である米澤穂信の傑作。ワイダニットとキャラ萌えを両立させるという稀有な手腕にはぜひ学ぶべき。

 

叙述

ホルヘ・ルイス・ボルヘス『八岐の園』: 叙述ミステリの本質をストレートに表現している傑作。これが叙述トリックです。

テッド・チャン『商人と錬金術師の門』: 一人称体、主人公が自分の口で語ることの意味を教えてくれる作品のひとつです。くどいようですが、なぜその人称を選択したのか説明できることがベターです。

同氏の作品では映画化もされた『あなたの人生の物語』もまた傑作なのですが、ネタバレが横行しているためこちらの作品を選びました。

 

夢野久作『瓶詰地獄』: 話の構成を練ることの重要さを示してくれる一作。ごく陳腐な設定でも構成一つでここまで凄まじい作品にできます。ありきたりなネタしか浮かばないという場合、こういった作品を参考に情報を出す順番を考えてみてください。

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特殊文体(童話・擬古文等)

小川未明『野ばら』: 童話体で書かれた日本語文章の中で最も美しいものの一篇。童話体は文章の美しさと情景描写力が命です。小川未明は他にも美しい文章を沢山生み出しているので、ぜひ参考にしてみてください。

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芥川龍之介『開化の殺人』: 擬古文といっても時代によって色々と違うのですが、芥川龍之介によるものは文法的に明瞭で現代人でも読みやすく、参考にしやすいです。芥川は多様な文体で小説を書いていますが、どれも非常に品質が高いのでぜひ全作品読んでください。

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番外編

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という訳で、目についた作品数の多いジャンルからいくつか選んで参考作品をあげてみました。他の作品のご推挙、また他のジャンルの参考作品のお問い合わせ等随時受け付けております。お気軽にお声がけください。

 

それでは、2023年もよい創作ライフを!!