「シェイプ・オブ・ウォーター」「修道士は沈黙する」ネタバレ解釈
先日「シェイプ・オブ・ウォーター」と「修道士は沈黙する」を観たのだけれど、それぞれの作品解釈について軽くTwitterなどを眺めていたら自分と同じ解釈のひとが見当たらなくてちょっと焦りました。えっこれわたしの解釈がおかしいの??もしかしたら探し方が悪かっただけで同じ解釈はたくさん既出かもしれないし、もしくは本気でわたしの解釈がおかしいかもしれないけれど、とりあえず備忘録も兼ねてここに自説を開陳しておきます。
ネタバレを遠慮なくしています。気にされる方はこれ以上スクロールしないでください。
最初に『シェイプ・オブ・ウォーター』の話をして、次に『修道士は沈黙する』の話をします。
なお、この2作品に関連性は全くないです。単にわたしが最近見たというだけ。
貴種流離譚としてのシェイプ・オブ・ウォーター
当作品が出た直後、この作品を「美女と野獣」の文脈で解釈したTweetがめっちゃバズっていた。曰く薄幸の美女イライザが異形の怪物と種族の差を乗り越えた真実の愛を築くという筋書だ。
えっでもこれ違うよね?話としては一種の貴種流離譚というかみにくいアヒルの子というか、だってイライザって本当は人間じゃなくて人魚だったってのがこの話のオチでしょ??だからキーイメージの二人が水の中で抱き合うシーンは思いっきりネタバレだったってことで、だからこそクッソーーーやられた感があった。
橋の下に捨てられていた孤児という出生、唖という伏線、そしてラストシーンでカッと開く首筋の傷、あれ鰓だったってことだよね?つまりこれは自分が人魚姫であることを知らなった健気なお姫様が王子様に見つけてもらい、艱難辛苦を乗り越えて無事本来あるべき王国へ帰る物語なのだ。だから半魚人の彼は醜い野獣ではなく最初から最後までれっきとした王子様であり、二人は種族の差を乗り越えてもない。
人魚である彼らにとって醜かったのはむしろ野蛮な敵種族としてのストリックランドであり、彼はさながら高貴なエルフの姫騎士を狙うオークだ。つまりこれは元来、人間の視線で描かれた物語ではなかったということだ。人間の話だと思っていたのは下賤な我々の思い込みでしたねー、ちゃんちゃん。
……という話だと思ってました。
ボルヘスの書いたみたいなミステリだった『修道士は沈黙する』
ミステリ作家としてのホルヘ・ルイス・ボルヘスさんは非常に特徴的な作品を書くひとで、個人的に物凄く好きだ。分類としては叙述の一つということになるんだろうけれど、心の中では世界観ひっくり返し系ミステリと読んでいる。思う存分堪能するにはミステリのみを詰めた作品集である『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』がいいんだけれども、単にボルヘスの代表作として名高い『八岐の園』が十分にボルヘスのミステリの魅力を詰めこみそういうのが大好きなひとの心をわしづかみにする。わたしの中では、同作は短編ミステリで史上最高の傑作だ。
ええとつまり、この映画は多分ボルヘス読んでないとちょっと意味が分からない。というかほぼほぼ『八岐の園』のまんまで、道具立てとか演出、ストーリーテリングに手を加えて映画の尺まで伸ばしたといった印象だ。
この作品を宗教や倫理、哲学を絡めた難解な作品だという解釈をいくつか見たが、いやそうじゃない。そういう衒学ネタは全部『八岐の園』にあったそれと同じ目くらましだ。
うまく文章にならないから以下要点を箇条書きで;
- ロシェがサルスを選んだのは、彼の前職が数学者で数式を理解し一発暗記する能力があると知ったから。自殺についての考えが合うとかいうのは嘘ではないが後付け。
- ロシェは"例の計画"を潰す気だった。その動機はおそらく、自らの死期を悟り菩提心を起こしたから。非人道的な計画に対する罪悪感は人並みにあったと思われる。
- ロシェは例の計画を潰す上で、自分ひとり反対しても少数派になり無意味だと思った。かといって自分が直接告発すれば、全世界的に深刻な金融危機に陥る。できるだけダメージを最小限にとどめつつG8の仲間たちに思いとどまってもらうには、自分たち以外の無害な第三者に計画が漏れたと思わせる必要があった。
- したがってロシェは告解自体をしなかった。告解すればサルスはその内容を永遠に公表しないから。
- サルスがロシェの自殺の知らせに驚いたのは、告解しないままだ自殺なんて修道僧である彼の理解が及ばなかったから。 上記のロシェの目的を当初サルスは理解できなかった。
- サルスがロシェとの会話内容を明かさなかったのはそれが告解で戒律に抵触するからではなく、単純にロシェの意図を図りかねたので慎重になっていた。
- サルスは他の閣僚や彼の友人たちと迂遠な哲学的会話をする中で、次第にロシェの意図を悟り、最終的に告発を決意しラストの説教につながる。この辺りのテクニックがほんとボルヘス。
もうこのサルスのことを著書で知りましたとかいうくだりがかなりボルヘス味。しかも本作はロシェはサルスを信じて死んでるので、はぁとうとい……
いやはや、野心的なミステリでした。そもそもの謎がメインの謎でなかったっていうかそういう話だったのー?!っていうやつ本当に好きです。神秘的・哲学的な道具立てとは裏腹に、オチの実もふたもない俗っぽさとのギャップがツボ。
ただ映画としては起伏に欠けたので慣れてないひとは眠たかったかもな……
- 作者: ホルヘ・ルイスボルヘス,アドルフォビオイ=カサーレス,Jorge Luis Borges,Adolfo Bioy Casares,木村栄一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/09/26
- メディア: 単行本
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